オイラーとゼータ関数

2017/05/13

    

 ゼータ関数といえばリーマンだが、それより100年くらい前のオイラーがこの級数をどう考えたのか、その思考をたどってみたい。

ζ(s) = 1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + ……

 上の式で s が整数値 2 のとき、正確にはどんな値になるかを示したのがオイラーだった。

 ζ(s) を掛け算形式で表現するオイラー積にも触れる。

 参考にしたのは次の2冊。

    


《目次》


    

1. オイラー以前の考察

 中村2004によれば、自然数の逆数をs乗したものの総和は、歴史的にかなり以前から意識されていたようだ。

 自然数の逆数の総和は調和級数という。ζ(1) のことだ。

 これが無限大に発散することはよく知られていた。

 では、ζ(2) はどうだろうか。

    

(1) バーゼル問題

 ヤコブ・ベルヌーイ(1654〜1705)は、ζ(2) が2よりも小さな有限の値になることは知っていたが、どんな値になるかは分からなかった。

 ベルヌーイが住んでいたのがスイスのバーゼルでバーゼル大学の教授をやっていたため、これがバーゼル問題といわれるようになったらしい。

 オイラー(1707〜1783)は、19歳までバーゼルに住んでいて、ベルヌーイ家の人たちと交流があったようだ。

 ベルヌーイ家の人たちは、ヤコブの弟 ヨハン(1667〜1748)、
ヨハンの次男 ダニエル(1700〜1782)も数学界で著名である。
オイラーは、ダニエルと同世代ということになる。二人は友人だったらしい。

☆ バーゼル: スイス、ドイツ、フランスの三国国境線の近くに位置する都市。ライン川が市内を流れる。現在はチューリッヒ、ジュネーヴに次ぐ第3の都市。

    

 中村2004では ζ(2) が有限値になることを下の不等式で説明している。

1/(k*k) < 1/((k-1)*k)

 右辺は 1/(k-1) - 1/k と同じ値だ。

 この引き算をやるために分母を通分すると

k/((k-1)*k) - (k-1)/((k-1)*k) = 1/((k-1)*k)

 ここで k が 2〜4 までのの場合について計算してみると

1/2^2 + 1/3^2 + 1/4^2 <
1/(1*2) + 1/(2*3) + 1/(3*4)

 下側の計算式は次のように変形できる。

(1 - 1/2) + (1/2 - 1/3) + (1/3 - 1/4) = 1 - 1/4

 4までの計算でなく、一般的にk が 2〜n までの値をとるとしても 1 - 1/n となる。

 これにゼータ関数の初項 1 を加えると 2 - 1/n である。

 nが無限に大きくなれば 2 に近づく。

 したがって、ζ(2) < 2 が成り立つ。

 ζ(2) が 2 よりも小さい値になることは分かるが、どんな値かは分からない。

 ちなみに、ζ(2) の正確な値は π^2/6 = 1.644934 である。

 なお、当代一流の数学者だったベルヌーイが ζ(2) < 2 という考察で止まっていたはずはなく、8/5 = 1.6 に近い値というところまでは見当を付けていたらしい。

    

(2) 調和級数が無限大になる理由

 ζ(2) の値をみる苗に、調和級数 ζ(1) について少しみてみよう。

 ζ(1) = 1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + 1/5 + …… は無限大になる。

 ざっくりした言い方だが、1/n 〜 1/(n*2.72) の総和は 1以上になる。

 たとえば、1/1000 〜 1/2720 の総和は 1.001316 になる。おおよそ1といっていい。

 1/n の n がどんなに大きな値になっても、これは成り立つ。

 なので、1 〜 1/n の総和は、n をどんどん大きくしていけば、次々と「1以上」が加算されていく。

 「1以上」が限りなく加算されていくなら、それは無限大になる。

    

 ここで 2.72 というのは自然対数eの近似値だ。なぜ e が出てくるのか……

 1〜1/n の総和を z(n) と表現することにしよう。

 z(n) の一つの項 1/n の n は自然数だが、これを実数にした 1/x を座標上に描くと双曲線になる。

 今、x,y座標上で (1, 1) (2, 1/2) (3, 1/3) …… (n, 1/n) の点に注目する。

 これらの点を結んでグラフを書くが、折れ線グラフではなく棒グラフにする(棒といっても縦長でなく横長の長方形)。

 グラフは、不規則な階段の形をなす棒のつらなりになる。

z(n) の値は、幅1の棒(長方形)の面積をどんどん足し合わせていったものになる、というのをイメージしていただきたい。

 棒グラフの上辺は、遠くから見れば双曲線に見えるだろう。

 ところで、曲線の下側の面積を求めるには積分すればいい。

 1/x を積分すると log(x) である。log(x) は双曲線の下側の面積に相当する。

 だとすると log(n) と z(n) とは近い値になりそうだ。

 y = log(x) というのは x = e^y の言い換えだが、
この両辺に e を掛け合わせると x*e = e^(y+1) である。

 なので、log(x*e) - log(x) = (y+1) - y = 1 となる。

 厳密さには欠けるが、先の 2.72 を持ち出した説明の意味合いは、上の対数の式に由来する。

 つまり、z(n*2.72) - z(n) ≒ 1 である。

 なお、「z(n) とlog(n) とが近い値になりそうだ」というのは「オイラー定数」に関連する。これについては後述。

    

 ζ(1) が無限大に発散するというのに話を戻そう。

わざわざ log(x) を持ち出さなくても、ζ(1) が無限大になることは示せる。

 1/2 + 1/4 + 1/4 = 1 であるが、1/2 + 1/3 + 1/4 は、それより大きい。

 1/5〜1/8 の4項の合計は 1/8*4 = 1/2 よりも大きく、
 1/9〜1/16 の8項の合計は 1/16*8 = 1/2 よりも大きい。

 したがって、1/5〜1/16 の合計は 1 より大きい。

 同じようにして 1/17〜1/32 の16項と、1/33〜1/64 の32項に着目すると、
やはり 1/17〜1/64 は 1 より大きい。

 この「1より大きい」の足し算は、限りなく続けることができる。

 よって、ζ(1) は無限大に発散する。

 以上が中村2004で述べられている説明である。

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2. ζ(2) の値

 志賀2009に、オイラーがどのようにして ζ(2) の値を洞察したかの説明がある。

 オイラーは、1735年に ζ(2) の答えを見出したらしい。28歳のころである。

 級数の因数分解や、三角関数 sin(x) の展開式を利用した、何とも巧妙な方法だ。

    

(1) 因数分解に向いている方程式

 次の二つの条件を満たす3次方程式 P(x) があるとする。

 上の条件を満たす方程式は下の形になる。因数分解した形。

P(x) = (1 - x/a) * (1 - x/b) * (1 - x/c) =
1 - (1/a + 1/b + 1/c)x + (1/(ab) + 1/(ac) + 1/(bc))x^2 - (1/(abc))x^3

 上は P(x) = 0 の解が a, b, c の三つのケースだが、
それを a1, a2, a3, …… と無限個の解があるとしても基本的な形は変わらない。

 展開式に出てくる係数 (1/a + 1/b + 1/c) には、なんとなくゼータ関数の「におい」がする。

    

(2) 三角関数 sin(x) の利用

 三角関数サインの展開式は下のとおり。

sin(x) = x - x^3/3! + x^5/5! - x^7/7! ……

 上の 3! は3の階乗。

 ここで sin(x)/x = 1 - x^2/3! + x^4/5! - x^6/7! …… に着目する。

 この方程式は、前述の P(x) の性質を持っている。

 つまり、P(0) = 1 であり、かつ、
P(x) = 0 となる解を無数に持っている。

 P(x) = sin(x)/x であるから、x ≠ 0 であるかぎり、
sin(x) = 0 の解が P(x) = 0 の解でもある。

 sin(x) = 0 となるxの値は、π, 2π, 3π, 4π …… および、それらに -1 を掛けた値だ。

 P(π), P(-π), P(2π), P(-2π) …… のいずれも 0 になる。

 とすれば、P(x) を因数分解形式で表すと下のようになる。

P(x) = (1 - x/π) * (1 - x/(-π)) * (1 - x/(2π)) * (1 - x/(-2π)) ……

 (1+x)*(1-x) = 1 - x^2 を応用して、上の式をもう少し整理すると

P(x) = (1 - x^2/(π^2)) * (1 - x^2/(4π^2)) * (1 - x^2/(9π^2)) ……

    

(3) 2種類の展開式の照合

 先に示した P(x) の因数分解形式

P(x) = (1 - x^2/(π^2)) * (1 - x^2/(4π^2)) * (1 - x^2/(9π^2)) ……

 これを展開するとどうなるだろうか。といっても全部を展開してみる必要はない。

 (1 - x/a) * (1 - x/b) * (1 - x/c) を展開したとき、
-(1/a + 1/b + 1/c)x という項が現れた。これに着目する。

 (1 - x^2/(π^2)) * (1 - x^2/(4π^2)) * (1 - x^2/(9π^2)) …… の展開から
-(1/(π^2) + 1/(4π^2) + 1/(9π^2) + ……)x^2 という項が現れることは簡単に類推できる。

 この項をもう少し整理すると

-1/(π^2) * (1 + 1/2^2 + 1/3^2 + ……)x^2 =
-1/(π^2) * ζ(2) * x^2

 ここで、P(x) = sin(x)/x としてスタートしたことを思い出していただきたい。

P(x) = 1 - x^2/3! + x^4/5! - x^6/7! ……

 この展開式の x^2 の係数は -1/3! = -1/6 である。

 因数分解を展開して得られた x^2 の係数と、この -1/6 とが同地のはずだ。

 したがって、次の式が成り立つ。

-1/(π^2) * ζ(2) = -1/6
ζ(2) = π^2 / 6

 どうだろうか。なんだか手品を見せられたような気分だが、パソコンで実際に計算してみると、どうやら合っていそうだ。

 それにしても、一つの式を2種類の形で表現し、それを結びつけるという発想は、提示されてみれば「なるほど」と思うが、さまざま存在する級数の中から P(x), sin(x) に着目したのは、やはり凄みを感じる。

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3. ゼータ関数の因数分解:オイラー積

 ゼータ関数 ζ(s) は、オイラー積といわれる因数分解形式で表現できる。

 素数を使った因数分解形式である。

 なぜ ζ(s) が、足し算だけでなく掛け算の形でも表現できるのか、中村2004に解説があるが、なかなか理解できなかったので自分なりの咀嚼方法を少し書いてみたい。

    

(1) 無限個の項からなる等比級数の和

1/(1-r) = 1 + r + r^2 + r^3 + r^4 + ……

 上は r が0以上1未満のときに成り立つ。なぜだろうか。

 等比級数の和 t = 1 + r + r^2 + r^3 + r^4 + …… + r^n を考えると、
t*r = r + r^2 + r^3 + r^4 + …… + r^n + r^(n+1) である。

 したがって、次の式が成り立つ。

t - t*r = t*(1-r) = 1 - r^(n+1)
t = (1 - r^(n+1)) / (1 - r)

 もし r が0以上1未満であれば、r^(n+1) は n が大きくなればなるほど0に限りなく近づく。

 なので、1 + r + r^2 + r^3 + r^4 + …… → 1/(1-r) となる。

    

(2) ゼータ関数と無限等比級数の和

 一般的な ζ(s) でなく、とりあえず ζ(1) を考える。

 これには無限等比級数の和が無数に含まれている。

2系列: 1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 +  1/16 + 1/32 + ……
3系列: 1 + 1/3 + 1/9 + 1/27 + 1/81 + 1/243 + ……
……………………
p系列: 1 + 1/p + 1/p^2 + 1/p^3 + 1/p^4 + ……  (pは素数)

 pが素数であれば、初項の1を別にすると、上記の式のどの項も一度しか出てこない。つまり、重複しない。ζ(1) の構成要素をなす。

 上を前述の無限等比級数の和 1/(1-r) を使って書くと

2系列: 1 / (1 - 1/2) = 2/1
3系列: 1 / (1 - 1/3) = 3/2
5系列: 1 / (1 - 1/5) = 5/4
7系列: 1 / (1 - 1/7) = 7/6
……………………
p系列: 1 / (1 - 1/p) = p/(p-1)

 無限等比級数の和が、なんだか簡単な有理数に変身してしまった。

 どの系列でも初項1は重複するので、それを引き算した上で合算するとして

 これら2系列、3系列、5系列、……、p系列 …… をすべて足し合わせると
でも、残念ながら ζ(1) にはならない。

 ζ(1) の中に出てくる 1/6 = 1/(2*3) とか 1/10 = 1/(2*5) が、系列の合算には出てこないからだ。

    

(3) 足し算から掛け算へ

 2系列, 3系列, 5系列 …… を足し合わせても ζ(1) にならないとすれば、どうしたらいいだろうか。

 抜け落ちてしまう 1/6, 1/10 などを見ると、その分母が異なる複数の素数を掛け合わせたものになっている。掛け算を導入すれば何とかなるかもしれない。

 2系列, 3系列, 5系列 …… の無限等比級数の掛け算を考えてみよう。

 まず 2系列に対して 3系列の各々の項を掛け算すると

 上は 2系列と 3系列の掛け算の出だしにすぎないが、5系列、7系列も掛け合わせていくと、それぞれの項の分母に、あらゆる素因数分解の組み合わせパターンが現れることが推測できる。

 であれば、2系列, 3系列, 5系列, 7系列 …… p系列 …… をすべて掛け合わせていけば、ζ(1) の各項を網羅できそうだ。

 そして、幸いなことに各々の系列は、1/(1-p) という簡単な式で表すことができる。

 以上から、下のオイラー積の式が導き出される。

ζ(1) = (1 / (1 - 1/2)) * (1 / (1 - 1/3)) * (1 / (1 - 1/5)) * ……

 この式が ζ(1) だけでなく ζ(s) にも当てはまることは容易に推測できる。

ζ(s) = (1 / (1 - 1/2^s)) * (1 / (1 - 1/3^s)) * (1 / (1 - 1/5^s)) * …… * (1 / (1 - 1/p^s)) * ……

 これがオイラー積といわれるものである。

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4. 素数の逆数の総和

 中村2004によれば、オイラーは、素数の逆数の総和

1/2 + 1/3 + 1/5 + 1/7 + 1/11 + ……

が発散することを、オイラー積を用いて示したらしい。

 ζ(1) を表すオイラー積は、1 / (1 - 1/p) = p/(p-1) (p: 2, 3, 5, 7, ……)を掛け合わせたもので、有理数で示すと下のとおり。

ζ(1) = 2/1 * 3/2 * 5/4 * 7/6 * 11/10 * ……

 ここで、オイラー積に log を適用することを考える。

 log(a*b) = log(a) + log(b) を適用して、オイラー積を足し算に変形する。

log(オイラー積) = log(2/1) + log(3/2) + log(5/4) + log(7/6) + ……

 右辺に出てくる log(x) の x は、どれも1よりちょっと大きい。

    

 ここで、x > 0 のとき log(1+x) < x となることを想起されたい。

 というより、かなりアバウトだが 0 < x < 1 の場合、
log(1+x) ≒ x といってもいい。
x が0に近づくほど「<」でありつつ「=」に近づく。

 log(1)=0, log(約2.72)=1 を思い出してほしい。

 グラフとして描くと、y=x, y=log(1+x) の二つは、
どちらも原点 (0, 0) を通り、
対数の曲線は、直線よりもゆっくり上昇していく。

 このことを利用すると、

log(オイラー積) = log(2/1) + log(3/2) + log(5/4) + log(7/6) + ……

 上の式の右辺の log() を外して下のように書ける。

log(オイラー積) < 1 + 1/2 + 1/4 + 1/6 + ……

 (左右をつなぐのは統合の「=」でなく、不等号の「<」になっている。)

 ここで「オイラー積」は無限大に発散し、それに log を適用した log(オイラー積) も発散する。

 だとすれば、右辺の 1 + 1/2 + 1/4 + 1/6 + …… も発散するのでなければ つじつまが合わなくなる。

    

 ところで、右辺に出てくるのは素数の逆数ではなく「素数から1を差し引いた数」の逆数だ。

 けれども「まあ大差ない」といえる。

 素数の逆数の総和との間に、どれくらい差があるかを考えると、

 各項の差は 1/(p-1) - 1/p = 1/((p-1)*p) となるが、
これは 1/(p-1)^2 よりも小さい。

 ζ(2) が 1.644934 程度だから 1/(p-1)^2 の総和は、もっと小さいはずだ。

 ということで、無限大み発散するものから高々 1.6 程度を差し引いても、やはり無限大に発散する。

 つまり、素数の逆数の総和は、無限大に発散する。

 以上は、私なりの納得の仕方であって、妥当かどうか分からない。

 オイラーがどんなふうに思考したかもよく分からない。

 ただ、中村2004によれば log(ζ(1)) を考えたことは確からしい。

    

 ほんとは、普通の式に無限大を登場させるのは御法度だ。

 まして、無限大を「=, <」で結びつけるのはナンセンスである。

 なので、ちゃんと考察するなら、自然数n よりも小さい素数 p を想定して、その上で式を組み立てそれを操作すべきである。

 ただ、そうした式をちゃんと書くと複雑になる。

 ここは素人の浅はかさとしてご容赦いただきたい。

 それはともかく、自然数 n より小さい素数 p について

psum = 1/2 + 1/3 + 1/5 + 1/7 + 1/11 + …… + 1/P

を考えた場合、psum ≒ log(log(n)) が成り立つようである。

 n が大きくなるほど psum と log(log(n)) の比が1に近づく。

 パソコンで計算してみた結果は下のとおり。

n prime psum log rate
100 97 1.802817 1.527180 1.180488
1000 997 2.198080 1.932645 1.137343
10000 9973 2.483060 2.220327 1.118331
100000 99991 2.705272 2.443470 1.107143
1000000 999983 2.887328 2.625792 1.099603
10000000 9999991 3.041449 2.779943 1.094069
100000000 99999989 3.174975 2.913474 1.089756

 rate は psum / log(log(n)) の値。

 それにしても、上の表の psum をみると、とても無限大に発散するとはおもえないが、無限の計り知れない威力を私が理解していないということだろう。

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5. その他の関連の話題

 ゼータ関数とオイラーに関連する話題を少々付け加える。

(1) オイラー定数

 1〜1/n (nは自然数)の総和を z(n) と表記するとき、
z(n) と log(n) とが近い値になりそうなことは前述した。

 グラフでいうと、不規則な会談が織りなす面積と、双曲線が織りなす面積とが近い値になりそうだというイメージである。

 n を無限に大きくしたとき、z(n) も log(n) も無限大に発散するが、
z(n) - log(n) がどうなるかというと、ある特定の値になるらしい。

 おおよそ 0.577216 くらいになるが、これをオイラー定数という。

 γ(ガンマ)の記号で表すのが慣習のようだ。

 この定数は、たぶん超越数だろうといわれているが、まだ証明されていない。

 γが、整数を係数とする代数方程式の解にはなり得ないことを示せば、それが超越数であることの証明になるらしい。

 逆にいえば、γを解に持つ該当の代数方程式をみつければ、γが超越数でないということになる。

 いずれにしても難解そうだ。

    

(2) リーマンのゼータ関数

 ゼータ関数にギリシャ文字の ζ を割り当てたのはリーマン(1826〜1866)のようだ。

 ζ(s) の引数 s は複素数だが、そこまでいかなくても、s <= 0 になると、単純に計算すれば無限大に発散してしまう。

 ζ(0) は、どんな数を0乗しても1になるから 1 + 1 + 1 + …… である。

 ζ(-1) は自然数を次々に足し算する形 1 + 2 + 3 + 4 + ……

 しかし、オイラーは、オイラー積を手がかりにして ζ(s) と ζ(1-s) とが対応関係にあり、一方が分かれば他方も分かると考えたらしい。

 これは ζ(s) = ζ(1-s) という単純な等号の関係を意味するわけではない。

 オイラーがどう思考したか分からないが、中村2004によれば

ζ(-2) = ζ(-4) = ζ(-6) = ζ(-8) = …… = 0
ζ(-1) = -1/12
ζ(0) = -1/2

 上の値を算出していたらしい。

    

 リーマンが明らかにしたところでは、一定の条件下で次の関係式が成り立つ。

ζ(1-s) = ζ(s) * 2 * (2π)^(-s) * Γ(s) * cos(s*π/2)

 上に出てくる Γ(s) は、「階乗」を実数や複素数にも拡張する関数で、
引数 s が自然数の場合は

Γ(s) = (s-1)! = (s-1) * (s-2) * …… * 2 * 1

 なお、ガンマ関数は、オイラーが既に考えていたらしい。

 このリーマンの関係式の cos(s*π/2) に着目すると、sが奇数 3, 5, 7, 9, …… のときに常に0となる。

 したがって、ζ(1-3), ζ(1-5), ζ(1-7) などは、いずれも0である。

 s = 2 として ζ(-1) を求めると

ζ(-1) = π^2/6 * 2 * 1/(4π^2) * 1 * -1 = -1/12

 ただし、なぞの数 ζ(3) を求めようとして s = -2 とすると、右辺に出てくる ζ(s) が ζ(-2) (その値は0)となって、単純に計算すると ζ(3) = 0 になってしまう。

 ζ(0) を算出しようとするときも、右辺に ζ(1) の無限大が出てきて素直には値を求められない。

 ζ(s) と ζ(1-s) の関係式は、注意して使う必要がある。

 リーマンの関係式は、複素数にかかわる「解析接続」という考え方に依拠しているらしい。

 オイラーのころは「解析接続」が明確に意識されていた訳ではないだろうが、ζ(-1), ζ(-2) などを算出していたことからして、それに近い変換方式を思考していたのではないだろうか。

    

〜 「オイラーとゼータ関数」おわり 〜

    

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